表現と伝達

万葉集の時代の人々が和歌に詠んだのは、旅先でのきれいな風景だけではありません。

家族と離れて暮らすようになった。引っ越しをして親しい友人と会えなくなった。SNSで繋がっている今ならすぐに連絡も取れますし、自分の近況を伝える事も出来ます。ビデオ通話機能を使えば、相手の表情を見ながら会話する事も可能です。

万葉集の時代はどうだったでしょうか?

父母(ちちはは)が 頭(かしら)かきなで 幸く(さく)あれて 言ひし言葉ぜ(いいしけとばぜ)忘れかねつる
(父母が私の頭をなでながら口にした、「達者でなさいね」という言葉が頭から忘れられないのです)
訳文を読まなくても何となく伝わってきませんか?この歌の作者は丈部稲麻呂(はせつかべの いなまろ)という人で、いわゆる防人(さきもり)の歌として伝わっています。大化の改新の後、当時の日本は大陸からの攻撃に備える為に九州沿岸の防衛を固める為の「防人」を置いていました、作者も出身地の東国から九州に防人として派遣されている時に故郷に居る両親を思い、早く帰りたいと思う感情が伝わってきます。

親族や友人に対する思慕だけでなく万葉集には恋の歌がたくさん掲載されています。

皆さんも恋焦がれる相手に思いを伝える時は、たとえLINEであっても相手に嫌われないよう、感動してもらえるよう、文章には気を使いますよね?

君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
あなたのためだったら、命は惜しくないと思っていた。けど、今となってはあなたと一日でも長く、いつまでも一緒にいたいと思うようになったのです)
こんなストレートな歌もあれば、もっと奥ゆかしい歌もありますので調べてみて下さい。

万葉集に詠まれている歌は、自己表現でもあり、感情の伝達手段でもあったという事は今のSNSとも共通しますよね?